Before Act -Aselia The Eternal-
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04:00 A.M.- 「どうだ、街の様子は?」 「問題ありません。街中の灯りは戻ってますし、リクディウスの森の方からの戦闘音も既に止んでいます。 スピリットが未だに帰還していない模様ですので全滅して侵入者を食い止めたのではないか、という推測が出来るのですか…」 「肝心のスピリット隊隊長様は今は部屋で錯乱中だ。 無理もないか。目的を達成できたとしても、スピリットを全て失っては話にならないからな」 隊長室で近状報告を聞いていた部隊長とその部下。 彼らは元通りになりつつある街の状況に安堵し、愚痴っていた。 「尊大な言動の方でしたからね。こうなるとは思っても見なかったんだと思います。 …しかし、唯でさえバーンライトとの戦闘で少数となった戦力をまたここで失ってしまって、大丈夫なんでしょうか?」 「問題は無い――とは言えないな。これで彼の思い通り侵入者を撃破出来ていれば多大な恩恵を得られただろう。 逆にそれだけの物を得られるのだから逆もまた大きな不利益を被るだろうし、死刑は免れないかもな」 「死刑ですか…。現在の我が国も戦力は如何ほどなのでしょうか…?」 「どうだろうな。我々が闘う者では無いので分からん。専門の奴がアレではな…」 遠くから大きな音が発している音が聞こえてくる。また何かを叩きつけたらしい。 「……侵入者のスピリットはやはり、バーンライトの工作員。バーンライトとまた戦争になれば――」 「細かに戦力を分散させて長期戦覚悟で挑まれてしまえば――言うまでも無いがな」 完全に戦力不足。ラキオス各地で現存する未熟なスピリットの教育・訓練は行われているが、それでもバーンライトには及ばない。 元より数で劣っていたのを純粋な戦闘力で賄っていたのだ。数で押されれば現在の枷では簡単に決壊してしまう。 コンコンッ 「それは無いだろうな」 「!? 誰だ!!」 部屋の入り口、扉をノックする音との時間差を殆ど無くして聞こえてきた男の声に部下の兵が即座に見やる。 いつの間にか扉は開いており、白の外套を羽織った一人の男が立っていた。 「貴様…いや、貴方は――」 「昨日はどうも」 レイヴンは軽く挨拶をした。 「隊長。知り合いなのですか…?」 「ああ、昨日な。彼はこの街の技術者と知り合いで彼の技術はその者のお墨付きだ。先刻に捜索しに行った家の彼のだ」 「あの美人でおしとやかな女性の夫ですか」 「幾ら羨ましいからといってそう声を荒げるな。 …それで? 貴方は一体ここで何をしているんだ? 関係者以外の者は立ち入り出来ない所だぞ」 彼らが居る場所は国家機関の軍事施設。 重要度としてはマナ施設には遠く及ばないものの、一般人の入出がそうそう出来るものではない。 「少々厄介な自体が起こってしまったな。彼の知り合い、ないしは親友の貴方に助力を請いたい」 「何を―――…彼の“知り合い”…? …まさか、ウィリアムに何かあったのか…!?」 語尾を荒げてレイヴンに問い掛ける。部下の兵は隊長の変貌に戸惑いを隠せない。 「この街の上役の男に先ほど拘束された。 今はまだ言葉での詰問を開始されようとしているようだが、拷問に切り替わるのはそう長くは無いだろう」 「そんな馬鹿な!」 同じく聞いている衛兵の男が否定する。 「我々が家宅捜査したときには何ら証拠はなかった。それにそんな勝手な事を隊長に連絡無くしてできるわけが無いだろう!?」 「…いや、不可能では無いな」 「隊長?!」 驚き振り返るも、隊長は顔を少し伏せて続ける。 「我々の直属の上司はこの街には存在しない。私たち衛兵は首都ラキオスに存在する軍事機関の武官なのは周知の事実。 だからと言って我々がこの街の全てを統括委任されてはいない。スピリットを連れてきたあの隊長殿が良い例だ。 スピリットは同じ軍事機関であるようで異なる。ラキオス国王の直属の完全に独立した軍事戦力。 我々への国家権力の優遇はそれなりにはあるが、スピリット部隊――正確にはその隊長への優遇は遥かに高い」 再び遠くからの激突音。最初は諌めに入ったものの、発狂しているために手がつけられない。 下手に手を出せば、何か在らぬ罪状を掛けらる可能性があるのもその一因。 「それはつまり…この街の上役も同じ、ということですか…?」 部下の言葉に、部隊長は溜め息を吐いて頷く。 「――そうだ。私はこの街の衛兵を束ねる立場にあるが、私より地位の高い者が命令を兵に下せば私の許可無く駒として動かせる。 流石に極端な命令となれば私への許可が無ければ動かせる事は無いが、誰かの拘束・尋問となれば微妙だ。 場合のよっては自己申告で事を終えられる。現にこの男から話が得られれなければそうだったかもしれん」 「架空の罪状をでっち上げれば拘束理由は事足りる。尋問となれば今ならそう難しくは無いだろう?」 レイヴンの言葉に部隊長は眉間の皺を寄せる。 「ああ、そうだったな…」 「…侵入者の手引き、マナ施設の工作疑惑、ですか…?」 部下の兵がこの夜の出来事を上げる。 「確かにそれだけでも即座に拘束をして拷問を実行する動機には成り得るな。 しかしその場合には私への尋問許可が必要になる」 「だがそれは彼が既に拘束されている事実の確証がなければ強制は出来ない。 ウィリアムが居ない事を例の上役に確認してこう言われれば?――『知らない。私は関知していない』。 例え認めたとしても何らかの罪状を言われれば、それを覆せる証拠がなければ結局は釈放が出来ない」 痛い所をレイヴンに指摘される。 「……罪を見つける事よりも、罪が無いのを見つける方が遥かに難しい。 一朝一夕では尋問の遅延は出来たとしても釈放は出来ないだろうな」 「…何か方法は無いのでしょうか?」 「―――」 沈黙。手立ては無いため、口を塞いでいるしかなかった。 「俺はそちらの“ウィリアムの親友”の協力を仰ぐために来ているのだが?」 「貴方には何か術でもあるのか…?」 「ある。そのためにはそちらの衛兵の部隊長としての存在の協力が必要不可欠だ」 04:38 A.M.- 「――いない。もう何処かへ行ったのかしら…?」 「どうでしょう。ですがもう街へと戻った方が良いのでは?」 ラキオスのスピリットたちは残存勢力の掃討にリュケイレムの森に入ったのはいいものの、それらしい気配も影も見えない。 夜の暗闇に加え、今日の曇り空では星明りも心許なかった。 「そうしましょう。下手をすれば裏をかかれて街への襲撃を掛けられるかもしれない」 「そうね。じゃあ、戻りましょうか」 04:43 A.M.- 「街に戻って行ってるの…?」 「その様です。私たちも後をつけるように街に戻りましょう。相手との距離は常に気を配ってください」 「了解です」 街へと戻り出したスピリットたいの後を追う様にシルスたちも隠れ蓑から離れて歩き出す。 「やっぱりあたしたちの気配って結構役に立ってるのね」 「そうですね。フィリスなんて寝ていながらもちゃんと気配を落ち着けていますし」 「…Zzz…Zzz…うにゃ…」 リアナが同行する霞の背中で寝ているフィリスの寝顔の頬を撫でるとくすぐったそうに蠢く。 「当然です。マスターの成す事には必ず意味は存在しています。 それを無駄かどうかを判断するのは個々に任せますが、卑下されては困ります」 「ちゃんと使えてるから文句は無いわ。 それにあんな死にそうに思える訓練をさせられて無駄なんて言われたらそれこそ『連環』の錆にしてやるわよ」 「あまり物騒なモノ言いは良くないですよ、シルスー」 「ホントの事を言ったまでよ。リアナもそう思うでしょう?」 「うーん…そう言われると否定は出来ないのは痛いところですけど、きっと何かを一杯食べさせてもらいます♪」 「…その発想が時々あたしは羨ましく思えるのよねぇ…」 「シルスがもっと楽しめる生き方をすればいいんですよ」 「そんな器用に生きてきてないのよ、あたしは」 「本がお友達でしたね。大人な本を読んでいれば、それは知識だけは一人前ですから仕方の無い事ですか」 シルスは勢いよくリインへと振り向く。 本人は至って涼しい顔。むしろ意味深げに微笑んでいるようでもある。 「何か?」 「別に。なんでも…」 少し顔を赤らめてそっぽを向く。そして不穏な気配に一筋の冷や汗が…。 「シールースー♪」 「………」 「何か良い事を私に黙ってるんですか?」 「…別に何も隠してなんかないわよ?」 「うふふ、嘘はいけませんよー。さぁ、洗いざらい聞かせてもらいましょうか。全てをさらけ出す位の勢いで、ね♪」 「……………」 シルスはこの時の余計な発言に後悔するのだった。 04:54 A.M.- 「ではあれは、偶発的に思い至ったとでも言いたいのかな?」 「そうです。丁度午前中の退去命令の直前に観測機器を起動させたままでしたから、それを思い出して確かめたんです。 具体的な観測内容ですが…」 「そんな説明は要らないよ。こちらの質問に答えていればいい」 「………私は、ただ一人のマナ研究者としてエーテル変換施設の復旧に従事しただけです」 こじんまりとしたテーブルを対面に、先ほどの上役の男とウィリアムは対面して座っている。 唯一の出入り口の扉の両側面には同伴していた衛兵の二人。 ラセリオの役所内の中でも倉庫目的で人手が存在していない一室。 そこで連行されたウィリアムは尋問を受けていた。 「本当かな? だからと言ってあれほど早く復旧させるとは…もしかしたら君が発端だったのかもしれない」 「貴方は早急に復旧させろと言っていたではないですか。 だから私や他の技術者達は深夜に叩き起こされたにも関わらず、眠気を堪えて尽力していたんです!」 「それは単なる誤解だ。私は君達に活を入れるために敢えてそういった物言いをしたんだがね」 ウィリアムはあの時、この上役の男がどれ程気を弱くして保身に走っていたのか直接言動を垣間見ていた。 だからこそ、嘘だ。そう確信している。 「そんな事は今は関係ないですね。話の入り方を少し変えましょうか。 ――マナ施設を混乱させた犯人は間違いなく、今回の侵入者騒動に関与している人物だと私は見ていました。 だからといって、大勢で仕掛けるには動き辛いので少数または単独で行動する必要があった。そう、一人の技術者としてなら簡単だね。 そして施設を混乱させた後、街は真っ暗。その隙にスピリットの侵入者をマナ施設に潜り込ませて破壊工作を実行する。 しかし、ここでちょっとした問題が発生してしまった。森に潜伏していたであろうスピリットの侵入者は森の中で迷ってしまった。 お陰でこの街で迎撃のために来ていたスピリットの逆襲に会い、役割を果たせなかった。 そして意味を無くした施設内からの混乱は後の脱出の際の後腐れを無くすために沈静化させて、ゆくゆく脱出」 話の内容としてはそれほど悪くのない推測ではあった。 しかし、その内容からすれば、ウィリアムは頭痛と深い溜め息を吐きたくなる。 「その過程においてその人物にとって予期しない出来事があった。 ――私が兵を連れて退路を途絶えさせて事ですよね、ウィリアム・バトリさん」 上役の男は満足げにウィリアムを優越感たっぷりに見据えた。 05:12 A.M.- 「本当だな、二人が見当たらないのは」 レイヴンの言葉に真偽を少しでも確かめるために部隊長は部下に調査をさせた。 「はい。先ほど文官に指示されて同行したきり誰も姿を見た者が居ません。 こんな時間まで起きて動いている文官は一人だけだったそうですが――」 「奴の言っていた上役、か?」 「はい、そうでした。今回の騒動の責任者は彼に一任されていましたから。 警備を厳重にしたはいいものの、こうして防げなかったのには責任は免れないかと」 「そうだな。そうなってくると、何が何でも犯人を見つけるしか罪状の軽減は難しいからな」 「――隊長。本当にあの男に言葉に従うんですか…?」 報告する衛兵――レイヴンと顔を鉢合わせていた――は不満をありありに質問をする。 「お前の心配は分かる。私とて完全に信用しているわけではない。 だが、私の何の報告もなしに彼を拷問させるわけにはいかない」 「ですが、この事が公になれば私たちもただでは済まないかもしれません」 「案ずるな。奴の言った通りならば、我々には何ら支障は来たさない。 もしも違えたとしてもだ、我々は我々の仕事を成せばいいだけの事」 「――隊長…」 頼もしい笑みに、部下の衛兵は眩しかった。 「了解しました! 実行に向けて最終点検をして参ります!!」 シャキッと敬礼をし、早足で出て行く。 「やれやれ…」 そう様子に苦笑をする。だが、これは立派な国家反逆行為に該当するだろう。 だがしかし、このまま放っておくのは衛兵部隊長として、彼の一人の知り合いとして看過出来ない。 「どこまであの男がやってのけ、信用できるかだな…」 05:19 A.M.- 「マスター」 ラセリオの正面門ではない裏から街へ入る入り口にレイヴンが立っていた。 まるで彼女達はそこから来る事が分かっていたかの様に…。 「遅かったな」 「安全上、少し時間を掛けて何人たりとも接触・視認されてはいません」 「ならば問題は無い。これから少々リインと霞に手伝ってもらう用が出来た。頼めるか?」 「ウィルコ」 リインは返事と共に微笑み、霞もレイヴンをその真紅の瞳で真っ直ぐに見据えて肯定を示す。 「そういう訳だ。お前達はこれから独自の手段でバトリ家に向かってもらう。 巡回する衛兵の人数は減ってはいるものの外灯は点り、夜明けも近い。最重要な点は見つからずに行く事だ。 大声での会話は厳禁なのは承知の上だろうが、細心の注意を払う事を忘れるな」 そう言って街へと歩き出し、それに追随してリインを後をついていく。 霞は背負っているフィリスをリアナの背に譲渡すると、小走りに彼らの後を追っていった。 … …… 「………」 「………」 「…Zzz…Zzz…Zzz」 一言も喋らずに再びレイヴンと分かれた三人。 言葉を発するタイミングを逸してしまい、沈黙が続いた。 「……………行っちゃいましたね…」 「……………そうね、行ったわね…」 「…Zzz…Zzz…Zzz…Zzz…Zzz」 また沈黙。 「―――ってぇ!! 何で一方的かつ理不尽な事を言って去るのよあんのもごごご?!!!」 「シルスっ! そんな大きな声を出しちゃ誰かに気が付かれでもしたら大変ですよっ!」 片手で背中のフィリスを支えているので、空いているもう片方の手で強制的にシルスの口を塞いだ。 「むぐぐ―――ぷはぁ…! …悪かったわよ」 「気をつけて下さいね?」 「ええ」 レイヴンへの不満が残っているために、まだぶちぶちと文句を呟いている。 「それじゃあ、さっさと行きますか」 「はいっ」 二人(+熟睡中の一人)は街へと歩き出した。 「そう言えばシルス」 「何よ?」 「セリアの家って、何処にありましたっけ?」 「………………」 「…この道は一回通った道と違いますし、先ほど街を疾走した際の道順は暗くて速くて覚えてませんが――」 「――何とかなるわよ、きっと。…あいつめ〜〜〜!」 シルスを叫びそうなのを堪えて身体をわなわなと振るわせる。 05:29 A.M.- 「…どうしても、話す気にはならないですのかね?」 「先ほどからも申し上げている通りに私は何もしていないし、身に覚えが無いんです!」 不毛ともいえる問答を続けてきたウィリアムと上役の男。 上役が一方的に罪状を読み上げていたのだが、ウィリアムは頑なに否定していた。 「仕方がありませんね。私も大切な技術者の君にしたくはなかったのですけど――」 背後へと目配せをし、扉の傍に立っていた衛兵が近づいてくる。 「力ずくで認めさせ、吐かせるしかありませんか」 ウィリアムは顔を少し引きつらせる。 「私からの最後の質問です。これにちゃんと答えてくれれば私も腹に決めずに済みます。 ――あなたは、マナ施設の工作活動に関与していますね?」 「………私は何もしていない、知らな――」 最後まで言う前にウィリアムは顔の側面を殴られて中断させられた。 「――残念です。私にはもう君に掛けるべき言葉がありません」 心にもない言葉を椅子から転げ落ちて苦悶の声を上げるウィリアムに投げ掛けた。 05:36 A.M.- 「――これを用いてスピリットの波長の気配を擬似的に生じさせ、エーテル変換施設へと向かえ。 途中でラキオスとの残存勢力との交戦となるだろうが、その際にはなるべく長い時間交戦状態を維持。 その間にこちらの所用を片付ける」 「ウィルコ」 「(こくりっ)」 レイヴンたちが居るのはラセリオの街の最北にある橋。 そこでリインと人型となった霞が先ほど手に入れたマナの雫の入った小瓶を受け取っていた。 そして彼女たちの服装は先ほど交戦した侵入者のスピリットのそれ。 外見上はリインはブルー、霞はブラックスピリットと見ても不思議はない。 「では、頼む」 二人は手渡された小瓶を真上に投げ、そしてそれぞれ『月奏』と『凶悪』で頭上で粉砕。 粒子にまで粉々になったそれは自由になった雫と共に舞い降りる。 そしてマナへと還る雫をその身に清め、静かなる旋風と存在を纏った。 ――二つのマナの気配がこの瞬間に生じた。 05:39 A.M.- 「新手!?」 「まさか、さっきの…?」 スピリットの宿舎へとたどり着いた途端に出現した気配。 「行きましょう!」 「わかった!」 ラキオスの生き残りのスピリットたちはオーラフォトンを展開して、気配の主の下へと駆け出した。 05:40 A.M.- 「! これって…」 「きっとあいつらよ。何をやってるのか知らないけど、こっちとしては都合のいい展開になるかもしれないわ。 少し様子を見てから動かない?」 「そうですね。下手に動くの良くないでしょう」 突然のスピリットの気配に察しがつき、状況を利用するためにシルスたちは身を隠すのであった。 05:44 A.M.- リインと霞はそのまま真正面からラセリオの街中へと駆け抜ける。 途中で幾人かの衛兵と鉢合わせるも向こうは反応し切れないか、背を向けて逃げ出していた。 目標はエーテル変換施設。正面方向に存在する光の柱の源へ。 「――来ました。先行をお願いします、霞」 「(こくりっ)」 昼間には多くの露店が建ち並ぶ街道。そこを隠れせずに突き進んでいれば直ぐに見つかる。 正面から迫り来る相手も同じく、不意打ちなどをしようともせずに真正面からであった。 「………」 並んで疾走していた霞は前へと突き出る。 相手にはレッドスピリットが居るものの街中の、それも夜明け前という時間帯では神剣魔法を安易に使えないでいる。 万が一にも民家へと流れれば死傷者の発生は免れない。完全に剣技による戦いを彼女たちは強いられる。 向こうの先行していたブルースピリットが霞と接敵。 初撃はお互いの獲物を交差させる事によって生じる衝撃波と閃光で開幕した。 05:51 A.M.- 轟音。街中を震撼とさせる振動と音が響き渡る。 それは拷問を受けているウィリアムの居る部屋にもはっきりと伝わっていた。 「何です!? これは一体何だ!!?」 断続的轟き震える大気と建物に上役の男は激しく取り乱している。 顔中痣だらけとなり、服で見えないがその下にも大小様々な痕が出来上がっているウィリアムも繋いでいる意識の中でそれを見ていた。 衛兵の二人も状況が掴めずに拷問をしていた手を止めて困惑している。 カンカンカンカン! 襲撃を知らせる狼煙の鐘音。ここでようやく街に侵入者が出現し、戦闘が発生している事を悟る。 「まさか……なんてことに!」 自分が納めている街が戦闘領域になっている事に上役の男は顔を青ざめる。 難民流入にマナ施設の動作不良、そして侵入者などの様々な問題に切羽詰っている状況で街への被害が追加された。 本来ならばこの様な場所で拷問に立ち会っている暇も無いのを、無下にしている。 器量ではない問題の山済みに、これからの自分の行く末に絶望を感じていた。 「もう私には未来は……こうなればこの男に全てを――」 目をぎらつかせ、ウィリアムを見つめる。 「お前達はもう戻っていい。この男に吐かせる時間はいりません」 「え、ですが…。この男はまだ何も吐いてはいませんよ? それでは真偽の程が――」 「必要ないと言っているのだよ! 私はこの街の、そして私の家系を知って言っているのかね!?」 絶叫に近い説き伏せる言葉に、言葉を返していた衛兵は息を呑む。 人としてあってはならない発狂の声に足をすくませていた。 「さっさと行かないか!!」 「「――はっ!!」」 彼の背後で出ていった衛兵が激しい音を立てて扉を閉める音がした。 「…はははははっ。――もう私はお終いだ。無能者としての烙印を押され、身分を剥奪されて浮浪者に…。 だったら、最後に。最後の最後にお前も道連れにしてやる………!!!」 「…何をするつもりだ」 口の中の鉄の味に苦い顔をしながらウィリアムは掠れた声で問う。 「お前は侵入者の指導者だ。それを私が捕らえ、王の御前に差出し処刑させる! そうすれば幾らかの恩赦を受けて再興の礎にしてやる。光栄に思え、お前は私の糧となるのだよ!! ……アッハッハッハッハッ!!!!」 仰け反って大笑いをする上役の男。 震える建物と相まって、ウィリアムの目には完全に狂った人間がそこには居た。 「残念だが、それは実現しない」 狂気の笑いをしていた上役の男が崩れ落ちるように床に伏した。 そしてその影から一人の男が――レイヴンが姿を現し、ウィリアムは目を見開いてそれによる顔の痛みに顔を引きつらせる。 「ネウラさん…――っ!」 「…傷そのものはどれも深くは無い。一ヶ月以内には全て塞がるだろう。 今は何も言うな。腫れで顔の神経が圧迫されて痛覚を感じ易くなっている」 見た目と触診で軽くウィリアムの状態を確かめ、彼を担いだ。 06:07 A.M.- (―――おかしい) 街中で戦闘を繰り広げている中で、ラキオスのレッドスピリットはそう思った。 神剣魔法を禁じている彼女では、目の前で繰り広げている戦闘に参加できるだけの技量はないために後方で観戦するしかなった。 既にかなりの時間が経過しているが、両者共に被害が出ていない。明らかの先ほどの侵入者とは異なる戦いをしている。 「……でも」 既にエーテル変換施設は目と鼻の先。何度も押し返していたが、相手の二人はそれを上回る押しでここまで迫った。 ただ突っ込んでくる戦いではなく、戦略がある戦いをしているのを観戦する立場で初めて気がついた。 「………」 スフィア・ハイロゥを展開し、詠唱を口ずさむ。 もう形振りかまっている余裕は無い。既に連戦で仲間は激しく消耗しており、これ以上は時間の問題なのは明白。 そして変換施設前は少し広い広場となっているために、神剣魔法を放っても被害は少なくて済む。 (…一回が、限度ね。ならば――) チャンスは一度きり。外せば、施設への侵入を許してしまうのは確実だと感じる。 目の前に突き出した掌と足元に魔方陣が発現、そして―― 「ファイアボール!」 威力を最大まで溜めた炎弾が複数。広場中央へ固まった敵二人へと放つ。 高速で迫った炎弾はそのまま彼女達へと―― ドドドォオオオン――…… 「……やった、の?」 爆煙が広場を包み、白み始めた世界を煌々と赤く染めた。 風が黒煙を攫い、爆心地からはクレーター以外には何も居ない。 先ほどまでの二人の反応は消えており、殺した事に安堵した。 「終わった〜〜」 緊張が抜けて、他のスピリットたちも地面に尻をつかせた。 06:14 A.M.- 「――あなた!!」 我が家へと帰ってきた夫の変わり果てた姿にシリアはうろたえる。 怪我人のウィリアムが無理して苦笑いをして妻を諌め、レイヴンに治療を任せた。 「しばらくは顔の表情を現すのに制限がかかり、痛みを伴うだろう。 食事の際にはなるべく顎に力の要らない食事を半月ほど、その後は徐々に硬めの物を食べ、完治後には顎を鍛えるように」 すぐに処置は終わり、後片付けをしながらレイヴンはウィリアムと傍らに控えるシリアに告げた。 「すみません。色々と世話を――痛つつ」 「動かないの。お礼なら私がするから…」 「必要はない。こちらも色々と世話になったからな」 そう言って席を立ち、玄関へと向かった。 二人はその行動に疑問に感じたが、入れ違いで眠気眼で部屋に入ってきたセリアにそれは消えた。 「あれ〜…? お父さんどうしたのー、その顔〜?」 今のウィリアムは顔中どころか全身包帯だらけ。さしずめ包帯人間(ミイラ)であった。 二人は苦笑し、ウィリアムは生還をした事を素直に嬉しく思った。 06:20 A.M.- 「遅かったな。俺が先に着くとはな」 玄関の扉を開け、丁度扉の取っ手に手を掛けようとしたシルスが虚空をにぎにぎとしていた。 「…悪かったわね。あんな知らない場所からの道程は大変だったのよ」 「要するに道に迷っていた、と?」 一旦中へとシルスたちを入れ、扉を閉める。 「…そうよ、あちこち隠れながら探すのにどれだけ苦労した事か…!!」 「大変でした…」 リアナも流石に少し疲れたのだろう。その溜め息に疲労の色があった。 「中で何か温かいものでも頼んで、休ませて貰え」 「またどこか行くんですか?」 「ああ。今度はそんなにはかからない。ちょっとした後始末だ」 未だに眠るフィリスを背負うリアナにそう言って、外へとレイヴンは出て行った。 06:25 A.M.- 白んだ空がまるで光の霧に包まれるように明るくなりだしている。 地平線から上る太陽の光が朝霧に乱反射して非常に眩しい。 そんな中を衛兵達は駆け回っている。 「隊長。侵入者は完全排除されたそうです。住民への被害はありません。 警鐘と戦闘音で安眠妨害と少し苦情や混乱はありましたが、全て処理は完了しております」 「そうか。後は例の件を始末すれば、今日は終わり――ではないな。 また今日の仕事に取り掛からなくてはな…」 その言葉を聞いた周囲の兵は嫌な声を上げた。 既に日は昇り始め、昨夜から一睡も出来てないのだ。寝ている時間など無いに等しい。 「それは私とて同じなんだ! さっさとこの件を終わらせて、少しでも休む時間を作るために動け!!」 四方に散っていく部下を見て、寝不足で少し頭痛がする頭を抑えた。 「…で、奴はどうしてるんだ?」 「ええ、それなんですが…」 遠くから叫び声が部隊長の耳へと届いた。 それだけで少し困惑して報告しようとしていた部下の意思を汲み取った。 見やれば、こちらへと拘束されながら来ている上役の男が。 「お前! 私にこの様なことをしてただで済むとは思っていないだろうな!?」 「お言葉ですが、それはこちらの台詞です。貴方様は無断でこちらの部下を使って何をしていたのですか?」 「売国者に事情聴取をしていたのだよ! 裏切り者がいたのだ! 速やかに確保、尋問をしただけだ!」 部隊長は少し困った顔をする。 「拘束するのは結構なのですが、私の許可なくして尋問は行えません。ましてや拘束した報告すらなかった。 …そんな事よりも、誰を拘束していたのです? 報告を聞く限りでは、倉庫の一室でお一人で床に伏していたそうですが?」 「何者かによって気を失わされていたのだ! 他に居たのだよ、手引きをした者が!」 「…それでしたら、こちらで警備の兵に扮していた侵入者を先ほど捕らえました。おそらくその者でしょう」 「もう一人の方は!? 施設を陥れた技術者の男だ!!」 まるですがる様な質問に首を傾げる。 「…はて? そんな報告は受けていませんし、存在しておりませんが?」 「何を言っているんだ、お前は!!? 居たでしょうに、お前の知り合いの男が!」 部隊長は少し思案し、思い当たる人物を言葉にする。 「…ウィリアムの事でしょうか? 彼でしたらずっとこちらで保護しておりましたが? いやはや、大それた事をする輩が居るみたいですね。何者かの浮浪者から暴行を受けて今では家で療養をしていますよ」 「お前、まさか裏切る気か?!」 「何を仰られるのですか…それよりも、これから忙しくなるでしょうね。 今回に件について、かなりの被害が出ているようですから。スピリット隊隊長様は既に強制的にお休みにさせてますし」 上役の男はその言葉を聞いて大きく振るえ、完全に脱力して拘束されている衛兵に支えられる。 部隊長は上役の男を連れて行くように指示をし、その後姿を見送った。 「…本当にいいですか、隊長?」 「彼は無実なんだ。こんな事で失ってはこの国の損失にしかならない。 まだやる事が山済みだ。この件はこれで終わりだ。仕事に戻るぞ」 「了解です」 06:32 A.M.- 『全く。面倒なことをしでかしてくれましたわね…』 龍の大地を見下ろす一つの存在。それはラキオスではなく、バーンライトでもない。 ましてやその世界そのものではない場所。 見下ろすという表現すらも生ぬるく、世界の全てがその掌にある様なそんな見方である。 『あやうく折角用意した舞台がめちゃくちゃになってしまうところでしたわ』 言葉を聞くだけで背筋を撫でられ、心を鷲掴みされるような幼女の声。 『余計な駒が居るようですわね…。うふふ、これは使えるかもしれませんわ』 何かを思いつき、即座にシナリオを練り上げる。 『これでしたら、前回の時よりも早く面白い展開になるでしょうね。 …うふふ。では後一つほど、駒を用意して差し上げましょう。 トキミさんも余計な駒を用意しているようですし、どうしてくれましょう? うふふふふ…』 …… 「――接続を確認。空間座標固定は完了、量子変換シーケンスはAll Green. 」 リュケイレムの森の中でリインは目の前に発現している複数の平面体のモニターを目まぐるしく確認している。 「粒子ポータブル及び時系列波紋の整備を完了…――来ます」 見上げた空から舞い降りる金色の粒子。 それは直ぐに柱となり、目の前の地面に発現している円陣内に刻まれている六角形の紋の中心へと収束する。 「観測情報の習得を開始。霞、頼みます」 円陣の傍らに立っていた霞はそのまま目の前の光に触れる。 彼女から真紅の輝きを発し、幾学模様の光の粒子が彼女の周りで描いていく。 そうしている間に金色の柱は消失していき、やがて消える。 ――地面に突き刺さった地面に眠る一本の神剣を抱いた一人の少女を生み出して。 「多量子及び空間干渉の終了を確認。観測を終了。霞、お疲れ様」 「(こくり)」 リインは自身の周囲に纏うモニターが消えると同時に、出現した少女の方を見る。 そこではレイヴンがその少女を清潔な布で包んで抱え上げていた。 「ご苦労だった」 リインはそれに微笑み、霞は頷く。そして次瞬には蒼と紅の粒子となって二人の姿は消えた…。 06:39 A.M.- 「へぇー。そんな事があったんだ〜」 「こっちは足止めだけで、そんなに大した事はしてないけどね」 「それでも凄いよー!」 「その後でこちらに来ようとしてあちこち迷ってしまいましたけどね」 「…それを言わないで、リアナ」 「〜〜〜♪(ぱくぱく)」 バトリ家で軽い食事を賄われながら、シルスとリアナは事後報告を兼ねた自慢話をしていた。 今まで寝ていたセリアは自分の知らない間の出来事に興味津々。フィリスも起き、食事に夢中である。 「そうだったのか――痛ててて」 「ほら、あなた。気をつけて」 「ああ、ごめん…」 彼女達の話を傍で聞いていたウィリアムはシリアに食事を食べさせてもらっている。 「あなたも頑張ってたのね。お疲れ様」 「なんの。こうして愛する人に食べさせてもらえるんだ、役得だよ」 「もう♪」 照れて背中を叩かれた彼は苦しそうだったが、そこを堪えてハッハッハと笑った。 「…またなのね」 「あははは…」 ピンクのムードを感じてシルスはゲンナリし、セリアも笑うしかなった。 06:41 A.M.- 「あ、ネウラ。お帰りでおはよう〜」 「ああ、おはよう」 セリアたちの部屋に入ってきたレイヴン。そしてその腕に中に抱える少女を見て驚く。 「どうしたのその子ー!? まさか隠し子?! もしかして誘かi――痛っ…冗談なのに〜」 頭をひっ叩いて黙らせ、セリアは少しむくれる。 「さきほど見つけたスピリットだ。ウィリアム、これを届けろ」 「…え、何故ですか? ネウラさんが見つけたのですから、ネウラさんが――」 「今回の一件での治療費その他諸々の費用に当てろ。 それと無実とは言え、一度は拘束をさせせられた身であろう? 口止め料とすればいい。 この国は既に軍事力が極端に低下し切っている。これだけで酌量の余地は十二分にある」 「…わかりました。シリア、その子を」 「ええ、わかったわ」 レイヴンの腕の中からシリアの腕の中へ。 シリアはその少女を見下ろすと、あどけない純粋な寝顔があった。 茶色いウェーブのかかった長い髪。閉じているために瞳の色は分からない。 「そしてこれがそいつの神剣だ」 そして次に出されたのが槍。リアナの『彼方』を融合させた形をさらに小型化・潤滑化した様な矛をしていた。 レイヴンはそれを壁際に立て掛ける。 「では、これで失礼する」 「…行くんですか?」 「ああ、これ以上ここに居るのは得策では無いのでな」 「そうですか。どこか行く当てでもあるんですか?」 「ない。だが、問題もない」 「それでしたら、サルドバルトのバートバルトという町へと行ってみて下さい。 そこで私の知り合いが居ますので、きっと話を聞いてくれるでしょう」 テーブルに置いてある紙とペンで何かを少し無理をして書き込み、それを差し出してくる。 受け取ったレイヴンはそれを眺め、懐へと仕舞いこんだ。 「…助言感謝する。頃合いを見て、寄ってみる事にする」 「はい、是非そうして下さい」 その言葉にウィリアムは満足げに頷いた。 「ネウラ〜、行っちゃうの?」 「ああ」 「次はいつ会えるのかな〜?」 「会えないと見た方が最良だ」 「ええ〜〜…!」 不満の声を上げ、シリアがそれをなだめる。 「セリア。ネウラさんにもご都合があるの。だからちゃんとお見送りをしましょう、ね?」 「ううー。だってお友達になったばっかりのフィリスたちとももっと遊びたかったのに〜」 「フィリスも〜…」 「スピリットのあたしたちがここにいたらそれこそ迷惑でしょう? 我慢ね、フィリス」 「そうですよ。残念なのは私たちもなんですから」 「…は〜い」 お互いに宥めあい、別れの挨拶と抱擁をする。 「では」 「はい、お元気で」 「娘と夫が大変お世話になりました」 大人同士の別れの挨拶は簡素に、それでいて言葉にはしっかりと意思を乗せていた。 「…じゃあね、ネウラ。フィリスにリアナにシルスも〜」 「ばいばい〜…」 「さよなら」 「お世話になりました」 そうして玄関で別れの挨拶を済ませる。外では人目につくために別れの後姿は見る事は叶わない。 「あ、そうだ。ネウラー」 何を思い出し、慌てて外へ出ようとするレイヴンを止める。 「最後に一つだけ質問〜」 「なんだ?」 「名前のネウラ・ニノウスってやっぱり偽名だよね?」 「何故そう思う?」 素で返すレイヴンに、セリアは笑う。 「ヨト文字だと分からないけど、発音の順番を変えるとニノウ・ウラネス(無い・名前)。 ほら、『名前が無い』んだもん」 「………」 無言で見下ろすレイヴン。そしておもむろにセリアの頭をわしゃわしゃと撫でる。 それは正解だと言っているんだと分かって、その下でセリアははにかむ。 「では最後に名乗ろう。俺の真名はレイヴンだ」 「やっぱりそうだったんだ〜。フィリスたちがそう言ってたから、そうじゃないかな〜って思ったんだ」 「では、な」 「うん、ばいばい〜!」 そして今度こそレイヴンとフィリスたちはバトリ家を後にした――。 06:54 A.M.- 既に太陽は地平線より昇り、昨日の朝と同じく眩い朝日が朝霧と共に街全体を照らしている。 彼らにとってはこの目が眩む明るさは身を隠すには丁度良かった。 「ねぇ、本当にこんな急ぐ必要があるの? まだ一日、それもてんやわんやでろくに休めてないじゃない」 「肝心なことを忘れるな。あの一家に手渡したスピリット、今どうしているか分かるか?」 「…気配がそのままなんだからまだあの家にいる事ぐらい分か――あっ…」 「そうでしたね。私たちは気配を抑えられますが、あの子はまだですからこの街のスピリットに気が付かれてますね」 「そういう事だ。あのスピリットならば言い訳は出来る。だがお前達では不可能だ」 「…ホント、そういう事は早く言って欲しいわね」 向かいの街道から複数の人影を認め、路地裏へと進行方向を帰る。 そして幾つかの細い道へと進み、そこで足を止めて周囲には完全に人影がなくなった。 「では、この街から離脱する」 そう言ったレイヴンの腰から真紅の、そして背中には蒼い翼が生えた。 何を、と聞かずとも分かった三人は各々レイヴンの身体へとしがみ付く。 06:57 A.M.- 真下へと翼先が向いている蒼い翼から蒼い粒子が散布され、浮遊する。 そして真紅の翼のひと羽ばたきで霧を突き抜けて大空へ。 「どこへ向かうんですか?」 「まずは食事を摂取する。リュケイレムの森で狩猟だ」 「……ねぇ、素朴な疑問なんだけど。昨日の朝もこうして飛んでいけば良かったんじゃないの?」 「そうとも言えるな」 「「「………」」」 「では、行くぞ」 06:59 A.M.- 蒼と紅の軌道を描きながら、レイヴンたちは北へと向かう。 大空から見える朝日が朝霧で絢爛と煌いている様は、また新たな日々の始まりを祝福しているようであった…。 07:00 A.M.- Now, The Intermission Of 24 Hours On Lakios is End. Returning Go To Next PHASE Of ―― 『 Saruddarut 』 |
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